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変体仮名の字母と字形「え」

順調に四日目。「え」の項は厄介なことになっている。

「え」の字母は「衣」。「衣」は常用漢字の音訓では「イ」としか読まないが呉音は「エ」で、現代でも「法衣」「白衣」の語では「え」と読む(「ほうい」「はくい」としか読まないという人は辞書引いてみてください)。

ところが、片仮名の「エ」は「江」からできたもの。これは本来ヤ行のエだといわれる。

ア行のエとヤ行のエ、といっても発音に区別はない。いろは歌が作られた時代(平安時代だそうだが)にすでに区別が失われていたので、いろは歌にも「衣」と「江」の別はないのだ(ワ行の「ヱ=ゑ」は区別されている)。

「い」の項で詳しく書かなかったので、ここで脱線して「ヰ=ゐ」のことも含めて触れておけば、ワ行のヰヱヲ(ゐゑを)も現代ではア行と発音が変わらない。いろは歌に残り、歴史的に仮名の遣い分けが行なわれてきたために、この仮名は残ったのだが、発音が同じなだけに遣い方がわからない人が多い。

「ヰ=ゐ」を外来語の「ウィ」の音にあてる表記は明治には広く行なわれた。「ヰスキー」「ヰット」などで、これが定着していればMSのOSも「ヰンドウズ」と書かれることになっていただろう。だが、一般には「ヰ」は「イ」でしかないわけで、せいぜい「ウヰスキー」という表記が残るにとどまった。

「エヱ」の混乱はさらにややこしい。通貨の「円」は字音仮名遣いでは「ヱン」だが、紙幣には「YEN」と書かれているし、略号も「¥」だ。「WEN」ではない。エビスビールも「ヱビス」で「YEBISU」。ア行のエと区別したいものの、ヤ行のエはなくワ行のヱで代用しているのかというと、そうではなくただ混乱しているだけのようにみえる。専門家のご教示を頂きたいところだ。

閑話休題。「え」と同字母の変体仮名は、

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住基仮名にもあるが、何だか「ネ」を下手に続けて書いたように見える。

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そして「江」を字母とするもの、これがたくさんある。

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実際、小学校令施行規則以前はこちらの方がいろは仮名だったのではないかと思えるくらいなので、今でも「○○さん江」などと書かれるのが名残だろう。

この字はすでにUnicodeにある(1B001 ? HIRAGANA LETTER ARCHAIC YE)が、Appleがまだ対応してくれていないのでiPhoneでは使えない。

 

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これや住基仮名の

 

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もグリフデザインに難がある。

文字符号化の専門家は定義(名前)にはうるさいがグリフの形状には関心が薄い、という話を12月22日におがたさんの発表で聞いたのだが、ユーザーにとってはreference glyphの質はフォントの質に直結するから恐ろしいのだ。

 

他の字母としては、「要」「盈」「枝」「延」があり、「盈」は住基仮名にある。並べて見ると住基仮名の気持ち悪さがよく分かる(左端は文字鏡、住基が右端)。

 

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なお、住基仮名では「ゑ」の変体仮名まで「え」の順番のところに並べているが、これは「ゑ」の項に譲る。

「要」「枝」「延」の字形例はこちら。

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