葛飾区亀有はどの程度「龜有」なのか

『表外漢字字体表』では人名用漢字別表の漢字も「表内字」としている。文部省(文部科学省)の所轄する『常用漢字表』と、法務省の定めた『人名用漢字別表』とではその性格はかなり異なるように思えるのだが、国語審議会の調査ではふたつは社会的に同様に扱われているという。

これには異論がないわけではないが「制定年の古いものほど人名漢字字体の定着度が高い」と言われれば、そんなものかなとも思う。

その代表として昭和26(1951)年に人名用漢字となった「亀」について見てみよう。

この字の康熙字典体は書きづらい。書きづらいから略して書くのが人の世の常である。中国の簡体字ではさらに簡単な「龟」となっているくらいだ。

ただ、昔の人は書きづらくても公式の文書には頑張って難しい字を書いていたらしく、HNGを見ると古人の苦労の跡が偲ばれる。みな何とか「龜」のような字を書いている。

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で、この「龜」の字体だが、『漢典』を見ると、国・地域によって規格の字体にばらつきがある。

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まあ、このくらいのばらつきは勘弁していただこう。

 
次に、地名表記で「龜/亀」がどう書かれているかだが、両さんでおなじみの東京・葛飾区亀有をiPhoneアプリの『東京時層地図』で調べてみた。
 

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現代の地図(GoogleMap)から遡ってみると、まず昭和30-35年の1万分の1地図。

 

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「亀」が人名用漢字になって5年以上経つからなのか、きれいに字体が揃っている。

では、戦前の昭和3-11年の1万分の1地図はというと……。

 

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おや縦書きの「亀有町五丁目」とある左に横書きで「龜有町五丁目」、そして下に横書きの「亀有町四丁目」とあって左には縦書きで「龜有町四丁目」。何だか不思議な共存の仕方だ。

これが明治41-42年の1万分の1地図となると、

 

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「龜有」ばかり。

そして明治9-17年の5000分の1地図では、

 

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「亀有村」。

「龜」という字は地図で見る限りは明治の中頃から昭和20年代までだけ用いられた様子だ。

 

「龜/亀」については、もう少し続きを書く予定。